こんにちは、練馬区中村北の税理士、田中慧です。
だいぶ日が空いてしまいましたが、今回は株式会社と合同会社の相違点について取り扱います。
個人事業主から法人成りを検討している方や起業予定の方で、どのような形態の会社を選べば良いのか迷われる方は多いのではないでしょうか?
ゆくゆくは事業を拡大して組織化していくため、相続税対策や事業承継のため、節税目的や社会保険料の軽減のためなど設立目的は様々ありますが、営利法人である限り法人税の取り扱いは基本的に同じです。
東京商工リサーチの調べによると、2024年に新設された法人のうち合同会社は27.3%(出だしのリンクを参照)で、新設法人のうち4社に1社以上が合同会社となっています。
その理由は、「設立コストが安く、株主総会が不要など経営の自由度が高い」ためとされています。株式会社については、数が減ってはいるものの比率としては依然として高く65.4%でした。
今回は新設法人として選ばれる比率の高い「株式会社と合同会社」の相違点について見ていきましょう。
なお、株式会社の設立方法として「発起設立」と「募集設立」の2つがありますが、以下は「発起設立」を前提としています。
まずはじめに、株式会社と合同会社の設立時の違いを、組織の形態を含めて見ていきます。
株式会社 | 合同会社 | |
組織形態 | 所有と経営の分離 | 所有と経営の一致 |
出資者 | 株主 | 社員 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 |
意思決定機関
(人間または人間が集まって出来る会議体のこと) |
株主総会と取締役
(取締役会などの機関設定も可能) |
社員総会(任意)
(定款に別段の定めを設定できる) |
設立費用(専門家報酬を除く) |
登録免許税: 15万円~ |
登録免許税: 6万円~ |
定款認証 | 必要 | 不要 |
(1) 組織形態
・株式会社
出資者(株主)と業務執行者(取締役)が異なることを前提とした組織です。そのため、日常業務に関する意思決定は代表取締役が行い、株主は(代表)取締役の業務執行に対して承認や拒否の意思表示をします。
また、取引先(債権者)の利益保護を目的として、会社財産や取締役が行う一定の取引には制約が設けられています。
中小企業では株主と業務執行者が同一であるケースが多いですが、株式会社は上記の前提に基づいて設計されているため、取締役の選任や特定の取引については株主総会での承認を得て、その旨を議事録に記載する必要があります。
・合同会社
出資者(社員)と業務執行者が同一であることを前提とした組織です。原則として総社員の同意または業務執行社員の過半数の同意を得て、日々の業務を行っていきます。
さらに社員総会の開催義務は無く、定款に意思決定のルールを自由に定めることでスピーディーに業務を行うことができます。
また、「同意」と言っても株主総会のような会議体で行う必要はなく、メール等でも有効ですが、改ざんリスク等に備えて議事録を残しておくのが良いでしょう。
最低限の法規制しかない代わりに、社員には高い法知識と交渉能力が求められます。
例えば、社員がひとりの合同会社の場合、「社員が死亡した場合に相続人がその持分を承継する旨」を定款で定めていないと、社員の死亡と同時に会社が解散してしまうことになります。
安易に合同会社を設立してしまうと、不測の事態が生じますので注意しましょう。
(2) 有限責任
・株式会社
出資者である株主は有限責任です。
・合同会社
合同会社は「持分会社」に分類されますが、従来の持分会社の一部社員は無限責任となってしまうため、これまであまり活用されてきませんでした。
定款自治による柔軟な会社運営が可能で、かつ出資者が有限責任となる会社形態のニーズの高まりに併せて、新たに「合同会社」が創設された経緯があります。
したがって、合同会社の社員は有限責任となります。
(3) 設立費用
設立時点では、費用の違いが重要なポイントです。
・株式会社
登録免許税:15万円~
公証人手数料:資本金額などに応じて1万5千円から5万円
印紙税:4万円(電子定款を利用すればかかりません。)
・合同会社
登録免許税:6万円
公証人手数料:0円(定款認証不要のためかかりません。)
印紙税:4万円(電子定款を利用すればかかりません。)
トータルで考えると、株式会社の設立には最低16万5千円かかりますが、合同会社は最低6万円で設立できます。
これに加えて、司法書士などの専門家報酬が5〜8万円程度かかるのが一般的です。
(4) まとめ
以上の点から、合同会社は出資者が有限責任であること、定款で意思決定のルールを柔軟に設定できること、そして設立費用が最低6万円と最小限に抑えられることが、選択される主な理由と思われます。
次に、会社運営時の違いを見ていきましょう。
株式会社 | 合同会社 | |
取締役(社員)の任期 | 原則として2年(最長10年) | 無し |
「役員報酬の総支給額」の定款への記載の要否 | 不要(定款で定めることも可能) | 原則として必要(無い場合、総社員の同意で支給可能) |
役員賞与(事前確定届出給与)の届出期限 | 原則として定時株主総会の決議日から1月以内 | 原則として定時社員総会の開催日から1月以内 |
利益の分配 |
原則として出資比率に応じて分配
(定款で別途定めることも可能) |
定款で自由に決定可能
(出資比率に縛られない) |
配当規制 | あり | 無し |
自己株式(自己持分)の取得 | 可能 | できない |
法人住民税の均等割の税率区分の基準 | 資本金等の額-欠損てん補の額 | 資本金等の額 |
(1)取締役(社員)の任期
・株式会社
取締役の任期が原則2年(非上場企業の場合は最長10年)のため、任期が満了後に再任する場合は登記(重任登記)をしなければなりません。
重任登記を失念していた場合、最後の登記から12年経過してしまうと解散したとみなされます。(会社法472条)
・合同会社
社員の任期が無いため、重任登記の失念によるみなし解散リスクはありません。なお、特例有限会社(かつての「有限会社」を指します)についても、取締役の任期はありません。
(2)「役員報酬等の総額」の定款への記載の要否
・株式会社
取締役または監査役の報酬等は、株主総会または定款に定める必要があります。(会社法361条、387条)
中小企業については株主(出資者)と業務執行者が同じことが多いため、株主総会の決議によって決めるのが一般的です。
・合同会社
会社とその社員については「委任」関係になるため、原則無報酬となりますが、報酬に関する特約があれば報酬を請求することができます。(民法第648条第1項準用、会社法第593条第4項)
その特約を定款に記載し、報酬を支払う意思、金額や算定方法を明確にすることで社員間のトラブルを防止できます。
ただし、報酬等を変更するごとに定款を変更する手間とコストがかかるため、定款には全社員に対する支給総額(例えば、「報酬総額は年間××万円以内とする。」)と報酬等の決定方法(例えば、「報酬等の決定方法は、総社員の同意による。」等)を定めて運営していく方法も考えられます。
定款に記載が無い場合でも、総社員の同意によって報酬等に関する特約を書面に定めることで支給が可能です。
ただし、この報酬等の支払が会社と社員の利害が対立する取引(「利益相反取引」と言います。)に該当するため(会社法第595条第1項)、報酬等を受ける社員以外の業務執行社員の過半数の承認が必要となります。
その際は、承認があったことを議事録などの書面に残しておくのが後々のトラブル防止に良いと思われます。
(3)役員賞与(事前確定届出給与)の届出期限
・株式会社
設立事業年度を除き、職務の執行の開始の日(通常は株主総会の決議等の日)から1月以内に税務署に役員賞与の支給額と支給日を記載した一定の届出書を提出しなければなりません。
・合同会社
株式会社と同じ取り扱いになりますが、合同会社は会社法上「職務の執行の開始の日」を定める必要が無いため、いつから1月以内なのか疑義が生じていました。
2025年2月7日に東京国税局による文書回答事例が公表され、「定時社員総会の開催日」から1月以内である旨明示されましたので、この点について記載しておきます。
参考:税務通信3843号(2025年3月17日)
(4)利益の分配
ここで言う「分配」とは、利益の「配当」ではなく、法人として得た利益や損失を、誰に、どのように割り当てるかを指します。
・株式会社
保有する株式の内容と数に応じ株主に利益が割り当てられます。当期純利益を発行済み株式総数で割った金額に、保有株式数をかければイメージが付くと思われます。
・合同会社
定款に「損益の分配」に関する別段の定めがなければ、出資額に応じて各社員に割り当てられます。これは持分会社(合同会社、合名会社、合資会社の総称)が民法上の組合に類似した内部規律を持っているためです。
例えば、定款に「損益の分配」に関する別段の定めがない場合で、業務執行社員A,B,Cの3名がそれぞれ100ずつ出資をし、300の利益が出た場合の各社員の持分について見ていきます。
合同会社では上記のような社員ごとの持分管理表を作る必要があります。
合同会社は、株式会社と違い「資本準備金」と「利益準備金」の制度はないため、資本剰余金・利益剰余金と表示します。
また、株式会社のように払込資本の額のうち2分の1以上を資本金とすべき規制も無いため、設立時に出資された額の範囲内で各社員が資本の内訳を自由に決めることができます。
今回は便宜上、3人が公平に100ずつ払込み、全額を資本金としています。
当期純利益が300出ましたので、出資の割合に応じてA,B,Cに100ずつ割り当てられます。
(5)配当規制
・株式会社
剰余金の配当を行う場合、その前後の時点の純資産額が300万円を下回ってはいけません。(会社法第458条)
また、株式会社は分配可能額の範囲内でしか配当を行うことができません。(会社法第461条)
・合同会社
純資産額に関する規制はありません。(会社法第621条第1項)
通常は利益剰余金の範囲内で配当が行われます。
(6)自己株式(自己持分)の取得
「自己株式の取得」とは、会社が自社の株式を取得することを言います。
・株式会社
取引先(債権者)保護の観点から、一定の金額(分配可能額)まで自己株式の取得が可能です。(会社法461条1項)
・合同会社
自己持分を取得することはできません。(会社法第587条第1項)
これは、各社員と会社の結びつきが強く、社員の個性と社員間の信頼関係が重要視され、社員は自己の持分を自由に譲渡できないこと(原則として総社員の同意が必要であること)から見ても納得できると思います。
この自己株式の取得の対価が、時価よりも高い場合や低い場合について法人税法上の取り扱いが重要になるのですが、ボリュームが多くなるため今回は割愛させていただきます。
(7)法人住民税の均等割の税率区分の基準
法人住民税の均等割は赤字でも黒字でも必ずかかりますが、利益剰余金の赤字を埋めるために資本金などを充当した場合に、均等割の税率区分の基準である「資本金等の額」から欠損てん補の額を控除できるかどうかもポイントになります。
・株式会社
問題なく無償減資の額を資本金等の額から控除できますので、均等割額も抑えることができます。
・株式会社以外の法人
無償減資の額を資本金等の額から控除できません。これは、計算規定が株式会社の剰余金に限定しているためです。(会社法第446条、地方税法第23条第1項四の二 イ、292条第1項四の二 イ)
したがって、合同会社については控除できないのがポイントです。
無償減資の際の論点としては、最近では法人事業税の「外形標準課税」外しを防止する改正の方が注目されていますが、今回の趣旨に合わないのでこちらも割愛させていただきます。
最後に、解散・清算時の違いを見ていきましょう。
株式会社 | 合同会社 | |
解散前後の事業年度 |
次のそれぞれの期間
①事業年度開始の日から解散の日までの期間 ②解散の日の翌日から1年を経過する日までの期間 |
次のそれぞれの期間
①事業年度開始の日から解散の日までの期間 ②解散の日の翌日から定款で定めた事業年度終了の日までの期間 |
取締役(社員)の死亡時 | 存続 | 別段の定めがなければ退社(解散) |
(1)解散前後の事業年度
・株式会社
その事業年度開始の日から解散の日までの期間および解散の日の翌日から1年を経過する日までの期間をそれぞれ事業年度とみなす取り扱いとなっています。
・合同会社
「その事業年度開始の日から解散の日までの期間その事業年度開始の日から解散の日までの期間」は同じですが、「解散の日の翌日から定款に定める事業年度終了の日までの期間」を事業年度とみなす点が異なります。
(2)取締役(社員)の死亡時
今回はここが一番大きなポイントです。
・株式会社
(代表)取締役の死亡は解散事由に該当しないため、解散とはなりません。
相続になり、その株式会社の株式が相続財産として課税対象になります。
・合同会社
定款に「社員が死亡した場合、他の相続人は他の社員の承諾を得て、持分を承継して社員になることができる」など別段の定めを記載していなければ、退社となり持分の払い戻しをしなければなりません。
こちらは法務局のホームページに記載例が載っていますので、ぜひ参考にされてください。
一人合同会社だった場合に、定款に上記の別段の定めが無い時は、解散事由である「社員が欠けたこと」に該当し、会社が解散することになるので注意しましょう!
なお、合同会社の社員の持分については相続税の課税対象となりますが、定款に別段の定めがあるか否かで、財産評価の方法が変わりますのでこの点にも注意しましょう。
以上になります。ここまでお読みいただき大変ありがとうございます。
いかがでしょうか?
ご自身のビジネスモデルに合った形態の法人を選ぶ際に、何かひとつでも参考になれば幸いです。
弊所では法人設立支援をサポートしていますので、設立の際はお声がけいただければと思います。