【個人所得税】RSU_各種所得の金額の計算

こんにちは、税理士の田中慧です。
第一回目の税務記事は、RSU(リストリクテッド・ストック・ユニット)の所得税の取り扱いについてです。
最近では日本の上場企業でも導入されて来ており珍しくはないですが、論点をまとめましたので、ぜひご覧ください。

RSU(Restricted Stock Unit)とは株式報酬の一つで、主に外資系企業に勤める役員や従業員の方がインセンティブ報酬として株式を無償でもらう制度です。日本語では「譲渡制限付株式ユニット」とされ、ユニットは「株式を取得する権利」を指します。譲渡制限が解除(=権利確定)された時に、株式を取得し売却することができます。
年末調整を受けた会社員の方でも、RSUがVest(権利確定)された場合には、原則として確定申告が必要となります。

RSUの所得税上の取扱いのポイント
  1. 対象者(納税義務者)
  2. 課税所得の範囲
  3. 課税関係(取扱い)
  4. 外国税額控除の適用の有無→次回
対象者(納税義務者)

税務上、「税金を納める義務がある者が誰か」の確認は一番大事です。
個人である所得税の納税義務者は以下の3パターンに分かれます。(所得税法第2条第1項2、3、4号、第5条)

1.日本に住所(生活の本拠)があるか、日本に1年以上住んでいる人(非永住者以外の居住者=永住者
2.日本在住で、過去10年間で日本在住期間が5年以下の外国籍の人など(非永住者
3.1.及び2.以外の人(非居住者

今回は過去に海外で勤務していた期間が無い前提で、一番基本的な1.永住者のケースを考えていきます。

課税所得の範囲

日本の永住者は、全世界で発生した所得について日本の所得税が課されます。(所得税法第7条)

課税関係(取扱い)

所得税の取り扱いについては、時点の認識がポイントとなります。
なお、以下の事例に個別性は無く、数字と数値は任意であることを先に申し添えておきます。
1.Grant(付与)時
株式を取得する権利が付与されただけですので、課税関係はありません。

2.Vest(権利確定)時
Vestは「株式の取得」を意味しますが、Release(交付)と表現されることもあります。
RSUは一定の勤務期間が経過した後に自動的にVest(権利確定)されます。
給与収入には給料と同質の物や権利の時価も含まれますので、交付される株式の時価相当額は給与所得として総合課税(累進課税)されます。
計算パターンは以下の通りです。
(前提条件)
・付与されたRSUの数:100ユニット(1ユニットにつき1株交付とする)
・Vest時のRSUの時価:1株=100ドル
・Vest時のTTM*:1ドル=150円

*TTM(対顧客電信買相場の仲値)とは、銀行が顧客と外国為替取引を行う際の基準となるレートのことです。
外国通貨で支払が行われる一定の取引は、原則として取引時のTTMを使って円に直します。(所得税基本通達57の3-2)

したがって、給与所得の収入金額:100×100×150=1,500,000円

となりますので、1,500,00円を確定申告書に新たに計上していきます。なお、この金額につき日本法人側は「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」という書類を作成し税務署に提出する義務がありますので、もらえればご自身で確定申告が出来そうですが、税理士にご依頼いただいた方が確実だと思われます。
この書類の提出期限はVest(権利確定)された年の翌年3月31日(非居住者の場合は4月30日)までのため、3月15日まで(個人所得税の申告期限)に作成されていない可能性があるからです。

3.Sell(譲渡)時
Vest(権利確定)された株式は、外国の親会社指定の外国証券口座にTransfer(移管)されますので、そのまま保有するか売却して換金するかを選ぶことになります。
売った場合には、申告分離課税される譲渡所得(株式等に係る譲渡所得等)の計算が必要です。所得区分につきRSUの発行会社が外国金融商品取引所に上場しているかどうかで、上場株式等に係る譲渡所得等または一般株式等に係る譲渡所得等に区別されますが、税率は共に20.315%(所得税、復興特別所得税、住民税の合計)となります。
譲渡益が出た場合と譲渡損失が出た場合では取り扱いが異なりますので、それぞれのケースを見ていきます。

(1)まず、譲渡益の場合について
(前提条件)
・給与所得とされたRSUの金額:1,500,000円
・株式数:100株
・譲渡時の株式の時価:1株=120ドル
・譲渡時のTTB*:1ドル=145円

*TTB(対顧客電信買相場)とは、金融機関が顧客から外貨を買い取る(顧客が外貨を円に交換する)際に適用する為替レートのことで、TTMから一定の手数料を差し引いたレートとなります。
株式等の譲渡による所得の計算上、譲渡収入についてはTTBにより円に直していきます。(租税特別措置法関係通達37の10・37の11共-6)

① 譲渡収入:100×120×145=1,740,000円
② 取得費:1,500,000円→給与所得とされた金額で株式を取得したと考えます。
③ 譲渡費用:0円→今回は無いものとします。
④ ①-②-③=240,000円

したがって、譲渡益240,000円につき、上場(一般)株式等に係る譲渡所得等の金額として確定申告をする必要があります。

(2)次に、譲渡損失が発生した場合について見ていきます。
(前提条件)
・給与所得とされたRSUの金額:1,500,000円
・株式数:100株
・譲渡時の株式の時価:1株=80ドル
・譲渡時のTTB1ドル=145円

①譲渡収入:100×80×145=1,160,000円
②取得費:1,500,000円
③譲渡費用:0円
④①-②-③=△340,000円(△はマイナスを意味します)

この譲渡損失340,000円につき生じなかったものとみなされ、切り捨てられます。
なお、上場株式等に該当した場合でも、内閣総理大臣の登録を受けた証券会社を通じた譲渡損失でないため、同じく切捨てられます。
上場株式等に係る配当等との損益通算も翌年以後3年間の繰越控除も適用できません。
この場合の譲渡損失の適用関係のまとめは以下になります。(詳細な理由については、コチラをご覧ください。)

Vest(権利確定)された上場株式等を外国の証券会社経由で譲渡 他の上場株式等に係る譲渡所得等との通算
(措法第37条の11 第1項)
上場株式等に係る配当所得等との損益通算
(措法第37条の12の2 第1項)
上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
(措法第37条の12の2 第5項)
譲渡損 × ×

課税関係のポイントは①時点の認識②換算レートの種類③譲渡損失の取り扱いの3つになります。
どこの金融機関のレートを使うのか、Vest(権利確定)日が土日祝だったらどうするか等、もっと細かい論点もありますが今回は省略いたします。

外国税額控除の適用の有無

今回は海外勤務期間がない前提のため、外国税額控除の適用はありません。
なお、RSUのGrant(付与)時からVest(権利確定)時までの間に海外勤務期間があると、外国税額控除の適用を検討しなければなりません。
ここは大きな論点ですので、次回以降に取り扱えればと思います。

以上になります。最後までご覧いただき大変ありがとうございます。
今回はRSUのVest(権利確定)時とSell(譲渡)時の課税関係を取り扱いました。

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